2週間以上、下痢や腹痛が続く・・・下痢への鍼治療とは。<前編>

こんにちは、青木です。
年内も余すところわずかとなり、富士山もすっかり雪化粧していますね。冬はお身体が冷えやすく、何かと不調が出やすい季節です。
今回のブロブでは、冷えも関係する「下痢」について、前編と後編の2回に分けて触れていきます。
下痢の概要
現代の日本では下痢の罹患率は非常に多く、下痢によって悩む方は6割以上に上ります。男女比はほぼないですが、下痢が発生する要因によって男女比に差が生まれます。
例えば、「ストレス」や「食事の乱れ」などが原因の下痢では男性の方が多く、生理や過敏性腸症候群などの特定の疾患では女性の方が多い傾向にあります。
下痢は幅広い年齢層にみられ、子どもから40代も多いです。近年では、10代の下痢が多く報告されております。ご高齢の方は「食生活の乱れ」や「食中毒」が要因となる傾向にあります。
下痢の原因
下痢の主な原因は、暴飲暴食やストレス、生活習慣の乱れ、ウイルスや細菌による感染症、食あたり、薬剤の副作用、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患、大腸がんなど多く存在します。
1つの原因の時もあれば、複数の原因が重なって下痢が起きることも非常に多いです。
〇原因不明の下痢について
下痢症状が続き、調べたが原因が分からないなんて人もいらっしゃると思います。なかでも、炎症性腸疾患で難病指定されている「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」はよく知られています。(難病:「発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立していない、希少な疾病であって、長期の療養を必要とするもの」と定義されています)
他にも、下痢症状を伴う「好酸球性消化管疾患」や「慢性特発性偽性腸閉塞症」も難病指定されています。
下痢の分類
下痢の分類は大きく3つのカテゴリーに分かれ、更にそこから枝分かれしていきます。
カテゴリーは「発症期間(症状が続いている期間)」と「原因」と「病態(病気によって変化した異常状態)」です。順に説明していきます。
発症期間
発症期間による分類は、「急性下痢」、「持続性下痢」、「慢性下痢」の3つに分かれます。
〇急性下痢
急性下痢は2週間以内に自然治癒する一時的な下痢です。主な原因は、細菌(病原性大腸菌、サルモネラ菌など)やウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)、暴飲暴食、お薬の副作用などによるものが多く、食中毒も急性下痢に含まれます。
腹痛と発熱症状が多く、ウイルス性は水様便が中心で嘔吐感も伴います。
基本的には、自然治癒することがほとんどですが水様便が続くと脱水症状になる可能性がある為、スポーツドリンクや経口補水液での水分補給が非常に重要です。
〇持続性下痢
持続性下痢は2〜4週間程度続く下痢です。主な原因は、急性下痢の感染症が長引いている場合やお薬の副作用・組み合わせによるもの、一部の寄生虫感染も考えられます。
症状は、強い腹痛や重度の下痢、発熱、血便が出現します。原因特定の為、医療機関の受診が推奨されています。
〇慢性下痢
慢性下痢は4週間以上続く下痢を指します。原因は消化器系の病気や精神的ストレス、お薬の副作用、特定の食事(牛乳や辛い食べものなど)やお酒、手術後の体質変化など多く挙げられます。中でも、消化器系の病気が原因の場合は原因の特定が大切です。
消化器系の病気とは、過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)、大腸がん、吸収不良症候群(セリアック病、ラクトース不耐症など)、腸内感染症など様々ある為、専門的な治療が必要となります。 症状が長引く場合は、深刻な病気が背後に隠れている可能性もあります、早めに医師の診察を受けることが重要です。
原因
原因も「内因性」と「外因性」の2つに分かれます。
〇内因性
一般的に内因性の下痢は、過敏性腸症候群やクローン病、潰瘍性大腸炎など身体の内部に原因がある下痢を指します。
しかし、上記の様な原因となる明らかな疾患もあれば、検査しても疾患が見つけられない様な精神的ストレスや腸内環境のバランスの乱れなどが原因になっている場合もあります。
〇外因性
外因性の下痢とは、身体の外から入ったもの(食べ物、飲み物、お薬など)が原因で起こる下痢のことを指します。外因性の下痢は、急性下痢が大半で一過性に落ち着きます。
具体的な原因は、暴飲暴食や食物アレルギー、食中毒、お薬の副作用、胃腸への刺激が強い辛い食べ物・アルコール・香辛料の過剰摂取などがあります。
原因を特定しやすい為、治療は原因を取り除くことで症状が落ち着きますが、脱水には十分に注意が必要です。
また、症状が2週間程度で改善の兆しがみられない場合は、自己判断せずに医療機関へ受診してください。
病態
はじめに病態とは、「病気が身体の構造や機能に与える影響が正常からどのように逸脱しているか」を指します。
病態の分類は、「滲出性下痢」、「浸透圧性下痢」、「運動性下痢」、「分泌性下痢」の4つに分かれます。
〇滲出性(しんしゅつせい)下痢
滲出性下痢とは、腸の炎症により「血管内の血液」や「細胞内の液体」が粘膜から腸管にじみ出ることで便の水分量が増加する病態です。
また、腸の炎症は、大腸の水分吸収機能を低下させる為、便は水分過多になり下痢を引き起こします。
主な原因疾患は「潰瘍性大腸炎」、「クローン病」、「感染性腸炎」「大腸がん」など他にも多く存在します。
〇浸透圧性下痢
浸透圧性下痢とは、腸管内で「吸収されない物質」や「吸収されにくい物質」の過剰摂取により、腸内の浸透圧が高まり、腸管の外側から腸内へ大量の水分が引き込まれて起こる病態のことです。手術後や特定の疾患により、腸管内の吸収率が低下することで浸透圧性下痢が発症することもあります。
吸収されない物質は、キシリトールやソルビトールなどの人工甘味料、浸透圧の高いマグネシウム製剤などが挙げられます。
〇運動性下痢
運動性下痢は、蠕動(ぜんどう)運動が過剰になり腸内を便が早く通過することで、大腸での水分吸収が間に合わなくなり、水分の多い下痢を引き起こします。(蠕動運動;腸の筋肉が伸び縮みをくり返して、内容物を体外へ移動させる動きのこと。)
主な原因は、精神的ストレスによる自律神経の乱れ、暴飲暴食、特定のお薬(下剤)などです。
〇分泌性下痢
分泌性下痢は、腸管内で水分や塩類が過剰に分泌され、腸管の水分吸収機能が間に合わなくなることで下痢が発生します。
細菌の毒素(感染性腸炎、食中毒、コレラ菌、O157など)やアレルゲン(アレルギー反応を引き起こす原因となる物質)、薬物、などが腸管粘膜を刺激することで、細胞内の情報伝達物質に異常が生じます。これにより、水分と電解質が腸管内に大量に分泌され、腸管内の水分吸収が間に合わなくなります。
今回はここまでにします。いかがでしたか。
次回後編は、下痢に関する「東洋医学での考え方」と実際の鍼治療についてお話しします。
